午前7時。
快晴。
南の風。
風量2。
もう初夏と言っていいだろう。
120km先のフェリー乗り場を目指し、風を味方につけ快調にペタルを回す。
田植えの時期を迎えて水がはられた水面に、山が映っている。
山々は新緑の季節を迎え、濃さを増している。
湾岸道路沿いの海は、波は無く穏やかだ。
時々、風が潮の香りを運んだ来る。
無料の自動車専用道路が出来た為、今走っている国道266号線にはほとんど車がいなかった。
私は初夏の季節がとても好きだ。
この季節になると聴きたくなる音楽を流すために、コンパクトスピーカーをバッグから取り出し、ハンドルに取り付けて電源を入れる。
1982年の6月に発表されたユーミンの「パール・ピアス」。
このアルバムを聴くと、瞬く間に当時に戻る事が出来る。
高校一年になった私はまだ新しい環境に慣れずにいた。
トレンドセッターだったユーミンはクラスでも人気が高かった。
同じ年の「パール・ピアス・ツアー」は地元の町でも行われた。
確か数名のクラスメイトは、いい席を確保すべくプレイガイドに徹夜で並んだはずだ。
でも当時の僕らには、ちょっと背伸びした音楽だったかもしれない。
今年の夏はどんな感じになるんだろう?
これから先、どんな事が待っているんだろう?
初夏は今でもあの頃の様に、ワクワクするような感じがする季節なのだ。
フェリー乗り場には、フェリーが出発する直前に到着したようだった。
歩行者が数名搭乗した後に、自転車と共に乗り込む。
自転車は自分だけ。
他はオートバイが1台、自動車は5台だけだった。
自転車をフェリーの係の人に預け、デッキまで駆け上がった。
デッキの上はもう夏がやってきたように暑かった。
フェリー乗り場があるこの小さな港町に、とても美しい橋がある。
今回のツーリングの目的の一つに、この美しい橋を眺め、走る事があった。
フェリーが出発間際だったため橋を渡る事は出来なかったが、美しい橋は今、目の前にある。
出発を告げる女性のアナウンスが響く。
フェリーがゆっくりと動き出し、やがて美しい橋は遠くになってしまった。
夜風が涼しくなる頃は/かなしい子供に戻るから/つれて行って遊園地
ネオンも星座も色褪せて/バターの香りが流れ来る/たそがれの遊園地
ああこのまま時間を忘れて/世界を舞い跳ぶビームになりたい
大人になったら宿題は/なくなるものだと思ってた/いかないで夏休み
ああしばらく孤独を感じて/都会を見下ろすカイトになりたい
思い出を駆けぬける/様々なイルミネーション/包んで今夜だけ
松任谷由実 / ようこそ輝く時間へ