夏の一日

20代の前半は毎日の様にバイクに乗っていたように思う。

なぜそんなに乗っていたのか・・・。

まぁ、その時はそんな事考えてもなかったし、とにかく乗りたかったから乗っていたんだと思う。

ただ、あの頃は日々の出来事をスポンジの様に吸い込んで、いろんな事を考えていたものだ。

ロードバイクからオフロードバイクにも乗るようになって、更に世界が広がった。

よく通っていたのが、九州山脈を横断する内大臣林道。

峠向こうの椎葉村まで、60キロ以上のダートが続いていたように思う。

今年の春ぐらいから、自転車で無性に行きたくなった。

バイクでも大変な林道を、自転車で登る事なんて出来るんだろうか?

危険じゃない?

いろんな思いが巡るが、それでもやっぱり登ってみたい。

25年前に購入したMTBを整備して、今回はタイヤも新調した。

どうやら椎谷峠先の宮崎側の道が、がけ崩れの為通行止めになっている様子。

峠まで行って引き返す事に決めた。

午前7時、林道入り口の近くに車を止めて、まだ肌寒い林道をウォーミングアップを兼ねてペダルを漕いだ。

二つの手掘りっぽいトンネルを抜けると、やがて道はアスファルトからダートへと表情を変えた。

雨が続いていた為、路面は締まっていて走りやすい。

路面が思ったよりフラットで驚いた。

澄んだ流れの川に沿って道が続いている。

大きな石がゴロゴロしていて、勢いよく水が流れている。

荒々しい、男っぽい感じの川だ。

この辺りはゴルジュもあり、沢登りには極めて険しいルートらしい。

どこまでも続くそり立つ崖、濃い緑、荒々しく流れる川の音。

その中をどこまでも自転車で走った。

山上までの中腹辺りに、川まで容易にアクセスできる場所がある。

何度か家族でキャンプをしたことがある場所だ。

晴れた夜には天井いっぱいに星が広がる。

自転車を川岸に止めて、川の中に入った。

澄んだ水の流れはとても冷たい。

頭を流れの中に入れて、一気にクールダウンする。

首筋まで降りてきた冷たい滴も、胸元を通る頃は汗と変わらなくなってしまう。

川の流れの中にある石に腰掛け、誰一人いない森の中を眺めた。

初めは30分位に一度休憩を取るぐらいで良かったのに、上に登るにつれ間隔が近まってゆく。

苦し紛れに立ち漕ぎをすると、すぐに後輪は空転した。

先ほどの川も今でははるか眼下に見える。

道の真ん中にシカが立っていた。

こちらに気づいて道を外れ、急斜面をトラバースして、しばらくしたら見えなくなった。

水飲み場を見つける度に、ボトルの中に水を入れた。

いつまで、どこまで登れば山頂なんだろうと弱気になってきた頃に、山頂が見えた。

記念にシャッターを切って、おにぎりをほおばる。

風が気持ちいい。

山頂までやってきたのは25年ぶりぐらい。

4時間かけて登ってきた道を、今度は2時間かけて下った。

今日、森の中で出会ったのはシカ3頭だけだった。

夏の一日の画像