今日、左の肩に墨を入れてきた。
巷は年の瀬で慌しくしているというのに、店内はゆっくりと時間が流れている。
Jaco PastoriusのCDジャケットと数枚のコピーを持参して彫師を訪ねたのは1ヶ月ほど前の事。
再び訪れると作業場にあるイーゼルの片隅にスケッチしたものが貼り付けてあった。
珈琲を飲みながら雑談をする。
こんな時間が大切なんだろうなと思う。
先日までは全然知らなかった人に自分の身体を預けるのだから、意思の疎通は重要だろう。
やがて作業を行なう為の道具が並び始まる。
初めて目にする道具を前に興奮を隠せない自分がいた。
それにしてもプロの仕事を見ているのは楽しい。
無駄な動きが一つもなく、その所作がとても美しい。
いよいよその時間が迫って来たようだ。
彫師に背を向けるような形で身体をベットにあずける。
背中で聞く機械の金属音がとても不気味だ。
刺青は点の集合体の為、身体に無数の針を刺す事となる。
機械の形状はエアーブラシのガンみたいなモノで、先端に取り付けられた針が小刻みに上下運動を繰り返している。
その不気味な金属音が自分の身体に近づいて来た時、緊張は最高潮に達した。
シャープペンの先で身体に書かれるような感じ、切れないカッターで傷を付けられる感じ、さまざまな感じに例えられるが、それは痛いというより焼ける様な熱い感じ。
作業しながらこまめに体が拭かれている、今自分の身体はどんな状態にあるのだろう?
確認してみたいが今の体勢だと直視することが出来ない。
時々気が遠くなるような痛みを感じる。
何か他に楽しい事を考えて気を紛らわそうと試みるが、苦痛は拭えない。
苦痛に耐え切れぬ人が途中で投げ出してしまうというが、わかるような気もする。
やがて彫師が「休憩を取りましょう」と言った。
なんだか救われた気分。
時計を見ると作業が始まってから2時間が経っていた。
珈琲を飲んで小休憩。
鏡で自分の肩を確認するとそこにはジャコの顔が見事に描かれていた。
しばらくして後半の作業が始まったが、相変わらず痛みは消えない。
店内に流れている古いソウルミュージックだけが救いだ。
どの位の時間が経過したのだろう?
Jaco Pastoriusの曲が流れ出した。
1曲目のDonna Leeはチャーリー・パーカーの名曲。
それをフレットレス・ベースとパーカッションのみで表現するなんて、どれだけの人が想像出来たというだろう。
2曲目のCome On, Come Overはサム&デイヴをヴォーカルに迎えたファンクナンバー。
ファンキーこの上ないジャコのベースが心地よい。
やがて理解する。
作業も終盤を迎えているのだ。
それにしてもここでジャコの曲をかけてくれるなんて粋なことをしてくれる。
仕上げに入ったことを示すように針先の動きも細やかになってきた。
最後の6/4Jamを聞き終えしばらくして作業は終了した。
先程の小休憩から2時間以上が経過していた。
鏡に映してみる。
とても素晴らしい出来映えだった。
Thanks! Garyさん